函館本線を下って長万部(おしゃまんべ)から山線に入り、倶知安(くっちゃん)の次の駅が小沢(こざわ)駅である。アイヌ語の地名が多い中では、何の変哲もない名前の駅だ。1971年8月、C62が来るまでの時間、D51の写真を撮っても仕方ない(今、考えるとなんとも罰当たりな話だが)と、熊笹の生い茂る小沢駅の裏山に登った

駅前に「たけだ旅館」と書かれた建物が見えるが、小さな町である。仕方ないと言いながらも、駅に停車するD51を撮影したのだが、驚いたのは富士山のような山が、二つも見えた事である。ひとつは駅の南方。後日調べてみると、1,308mのニセコアンヌプリであることが分かった。ニセコ連峰の主峰で、ヌプリはアイヌ語で「山」である 1971年(昭和46年)8月

もうひとつ南東にさらに立派な山が見えたのが(これは私も知っていた)1,893mの羊蹄山、アイヌ語ではマッカリヌプリである。ただ、この山を「ようていさん」と呼ぶ事には異論があり、「日本百名山」の著者・深田久弥はその著書でこう書いている

この山を単に「ようていさん」と略して呼ぶことに私は強く反対する。古く「日本書紀」斉明朝5年(659年)にすでに後方羊蹄山(しりべしさん)と記された歴史的な名前である。(略)後方を「しりへ」、羊蹄を「し」と読ませたのである。(略)だからただ羊蹄山だけでは、「し山」ということになる。私は山の名前は昔からのものを尊重したいのであって、便宜的な略名を好まない。

いずれにしても、どっしりした山容の美しい山である 1988年(昭和63年)