黒部峡谷鉄道は、黒部川の電源開発のための資材運搬鉄道としてスタートしていて、軌道は762mm。現在はトロッコ電車と称して観光車両も運行しているが、やはりメインは資材運搬と工事関係者の輸送である。以前、観光ツアーに参加してアルペンルートと黒部峡谷鉄道を訪れ、黒部峡谷の深さと、そこに鉄道を走らせている事に大いに驚ろかされた事があった。ところが、ある時、この峡谷鉄道の終点・欅平(けやきだいら)駅のさらに奥に非公開の鉄道があり、それを進むと黒部ダムまで行く事が出来ると聞かされ、一度は乗ってみたいと思い続けていた

2010年11月、視察に同行して黒部峡谷鉄道の欅平より上部、非公開の黒部専用鉄道(通称、上部軌道)を経由して黒部ダムまでのルートを体験乗車する機会を得た

黒部専用鉄道(上部軌道)1の続き

高熱隧道を抜けると上部軌道の途中駅「仙人谷」。駅から望む関西電力仙人谷ダムと北アルプスが素晴らしい

上部軌道の終点は標高869mの「黒部川第四発電所前」駅。有名な「黒四ダム」はこの発電所の発電用に作られたものであるが、ダムがあるのはこの発電所の何と約10km上流で、このダムの水を高底差545mの地下トンネルで一気に落下させて黒四発電所で発電するという大がかりな建築物である

「黒部川第四発電所前」駅からは、最大積載25tのインクラインとなる。所謂ケーブルカーである。34度の傾斜で長さが815m。トンネルのはるか先に上部駅が見えるが、下部駅は標高869m、上部駅は1,325mで、標高差456m。これを約20分で登る

車両は何とも凄い構造で、言葉ではうまく説明出来ないので、車両内に貼られていた説明図をご覧いただこう。車体上部のケージに人間が乗ることになる

いよいよ黒部ダムが近くなってきた。インクライン上部駅(作廊谷)から黒部ダムまでは黒部トンネルを走る関西電力直営のトロリーバスに乗車(今年からは充電式電気バスに置き換え)

バスを降りてからトンネル内を歩くと、黒部ダムのアーチ面に出る事が出来た。高度恐怖症ではないが、流石に吸い込まれそうである。この写真の場所がどこかというと、下の写真の白い矢印の部分である

11月の黒部ダムは、もはや冬の装いであった

大町と立山を結ぶ立山黒部アルペンルートが壮大な自然のパノラマを見せてくれるのとは対照的に、この黒部専用鉄道(上部軌道)ルートは、自然との闘いで作り上げられた素晴らしい構築物と、それぞれの構築物間のアクセスラインを合わせて、人工物の美しさを見せてくれる。そして、関西電力とこの工事を請け負った建設会社の、というより人間の執念と、強い使命感を感じる事が出来る。ただ、このルートの素晴らしい構築物の陰では、建設のために400名以上の殉職者が出ている事を忘れてはならない

関西電力では、ご紹介してきた黒部専用鉄道を使ったルートの見学会を毎年30回以上実施していているが、事前の応募が必要となる。ご興味のある方はこちらへ 応募要項はこちら

また、このルートの解放に向けての関西電力と富山県の協議も進んでいるようなので、見学が緩和される日が近いと思われる

黒部専用鉄道(上部軌道)1